2016年7月19日火曜日

新制度(総合型DB)の解説:負担と給付のバランス④
赤字給付』の原因・特別掛金は、なぜ新制度でも必要なのでしょうか


現行基金制度から新制度への移行は、『移転承継方式』により実施されます。
『移転承継方式』とは、加算部分の権利義務(年金を受給する”権利”、年金を給付する”義務”)を新制度に移転する、ということは現行基金制度の”資産と負債を新制度に移転して引き継ぐ”という意味です。
従って、財政上は、年金資産と年金負債(数理債務)を移換するので、そこに積立不足がある場合には、その積立不足も新制度に引き継がれることになります。これによって、新制度に加入した事業所の受給権者・加入員への年金給付は保全されます。

新制度での特別掛金は31‰で、償却期間は10年3ヶ月となっています。掛金率はほぼ同じですが、償却期間が短縮されています。この理由は、新制度での年金給付が、加入員は年金額減額(一時金額は現行と同額だが)、および給付期間の変更(終身給付を廃止、最長20年の有期給付)となり、受給権者は終身給付は維持するものの年金額は約3割減額となりますので、その結果として、新制度での年金負債額は減額されます。それに伴って積立不足額(償却対象)も減少するので、償却期間を短縮することが出来るということです。

受給権者への年金給付を継続し(約3割の減額があるにせよ)、また加入員の将来の給付を確保するために、新制度が制度開始当初から抱える積立不足を償却するために、3.1%の特別掛金負担が10年3か月間は必要、ということです。
社員の標準報酬給与月額が30万円の場合、その3.1%(月額9300円、年間11万1600円)を向こう10年3か月にわたって負担すると、負担総額は一人当たり114万3900円に上ります。
これだけの負担をしても、自社の受給権者(OB)と加入員への年金(または一時金)給付を維持したいと考える事業所は新制度に加入することになるのでしょうか。

では私達(有志企業)は、なぜ新制度には加入しないと考えているのか、その理由をご説明いたします。

(次に続く)
新制度(総合型DB)の解説:負担と給付のバランス③
赤字給付』の原因、特別掛金は、何のため、誰のため?


特別掛金とは、過去に発生した積立不足分を穴埋めするために負担するものであることは、先の投稿(7月7日分)でご説明のとおりです。
積立不足ということは、今後の年金支給に必要な資金が不足しているということなので、穴埋めをしなければ、今の受給者への年金給付、あるいは今の加入員が将来退職して受給者になったときの彼らへの年金給付が、出来なくなるということです。

特別掛金は「財政再計算」によって計算・設定されますので、直近で財政再計算を行った平成26年度末(平成27年3月期)の状況を振り返ってみましょう。
[平成27年9月18日 第98回代議員会報告資料より]



平成26年度末の財政再計算の結果、特別掛金29‰(基本特別掛金22‰、加算特別掛金7‰)を平成27年4月から向こう16年間(平成42年度まで)負担することになりました。この16年間に支払われる特別掛金総額を現在価値に引き直すと(未償却過去勤務債務残高)、総額210億円62百万円になることが分かります。

つまり、特別掛金は、財政再計算時点での積立不足額を長期間で償却(穴埋め)するために設定された追加負担分で、平成26年度末での不足額(償却対象)は約210億円に上っていた、ということです。これは、受給者約14千人、加入員約17千人に対して、基金からの年金給付を将来にわたって保全するために必要ということです。

(次に続く)

2016年7月15日金曜日

新制度(総合型DB)の解説:負担と給付のバランス②
なぜ赤字給付』になるのでしょうか?

新制度(総合型DB)の負担と給付のバランスがなぜ『赤字給付』になるのでしょうか。
赤字給付の構図を、イメージ図で表すと下のようになります。
(30年加入、60歳退職、平均給与30万円の場合)
これで一目瞭然ですが、特別掛金3.1%(31‰)を10年3か月の間、負担することが
『赤字給付』になる原因です。
つまり新制度(総合型DB)に加入した場合、加入員一人当たり約114万円(標準給与30万円の場合)の負担をすることが確定しているということです。
では、この特別掛金は、誰のために、なんのために、拠出しているのでしょうか。
(次に続く)

2016年7月10日日曜日

新制度(総合型DB)の解説:負担と給付のバランス①

加入期間&平均標準報酬別の給付(年金・一時金)と負担のバランスを見てみます。(説明会資料10頁)なお年金額は給付総額が最大になる20年確定年金の場合とします。

■60歳資格喪失(退職)、60歳支給開始の場合;

加入期間10年(50歳で中途入社、60歳で退職の社員);
平均標準報酬30万円の場合
   ①給付額;脱退一時金664,600円、または年金20年分総額808,000円
   ②負担額(掛金総額);30万円×4.5%×120ヶ月(10年)=162万円
 ①-②⇒給付額66.5万円~80.8万円vs負担額162万円▲95.5万円~▲81.2万

平均標準報酬40万円の場合 
   ①給付額;脱退一時金886,100円、または年金20年分総額1,078,000円
   ②負担額(掛金総額);40万円×4.5%×120ヶ月(10年)=216万円
 ①-②⇒給付額88.6万円~107.8万円vs負担額216万円▲127.4万円~▲108.2万


加入期間20年(40歳で中途入社、60歳で退職の社員);
平均標準報酬30万円の場合
   ①給付額;脱退一時金1,329,100円、または年金20年分総額1,616,000円
   ②負担額(掛金総額);30万円×4.5%×123ヶ月(10年3ヶ月)*特別掛金期間
                +30万円×1.4%×117ヶ月=215.2万円
 ①-②⇒給付額132.9万円~161.6万円vs負担額215.2万円▲82.3万円~▲53.6万

平均標準報酬40万円の場合
   ①給付額;脱退一時金1,772,100円、または年金20年分総額2,154,000円
   ②負担額(掛金総額);40万円×4.5%×123ヶ月(10年3ヶ月)*特別掛金期間
                +40万円×1.4%×117ヶ月=286.9万円
 ①-②⇒給付額177.2万円~215.4万円vs負担額286.9万円▲109.7万円~▲71.4万



加入期間30年(40歳で中途入社、60歳で退職の社員);
平均標準報酬30万円の場合 
 ①給付額;脱退一時金1,993,700円、または年金20年分総額2,424,000円
 ②負担額(掛金総額);30万円×4.5%×123ヶ月(10年3ヶ月)*特別掛金期間
               +30万円×1.4%×237ヶ月=265.6万円
①-②⇒給付額199.4万円~242.4万円vs負担額265.6万円▲66.2万円~▲23.2万

平均標準報酬40万円の場合 
  ①給付額;脱退一時金2,658,200円、または年金20年分総額3,230,000円
  ②負担額(掛金総額);40万円×4.5%×123ヶ月(10年3ヶ月)*特別掛金期間
               +40万円×1.4%×237ヶ月=354.1万円
①-②⇒給付額265.8万円~323.0万円vs負担額354.1万円▲88.3万円~▲31.1万


60歳退職・60歳支給開始の場合、加入期が10年・20年・30年いずれの場合でも
社員の受取金額(一時金・」年金)が、会社の掛金総額を下回るいわゆる
『赤字給付』になることが分かります

本来、企業年金制度は、社員の退職後のために、毎期の収益の中から給与・賞与に
次ぐ第3の賃金として積立するものです。社員への支給額が会社の拠出額を下回る
ようでは、積立方式になっていないのではないでしょうか。

(次に続きます)



新制度(総合型DB)の課題を解説します。

先週からスタートした説明会で新制度(総合型DB*)の説明資料が提示されました。
【DB:確定給付企業年金】
そこで、新制度(総合型DB)の内容と課題を解説(青字表記)いたします。

■総合型DBの内容■
①掛金(全額事業主負担)について:-標準報酬給与月額に対する掛金率-
 -標準掛金 12‰ (1.2%)
 -特別掛金 31‰ (3.1%)・・・償却期間10年3ヶ月
 -事務費等   2‰ (0.2%)
   合   計  45‰ (4.5%)
  掛金率は、‰;パーミル(千分率)と、%;パーセント(百分率)の両方で記載します。ご注意ください。

 ※掛金に関する最大の課題は、特別掛金の負担です。
  特別掛金とは、過去に発生した積立不足分を穴埋めするために負担するものです。
  特別に掛金を増やせば将来の年金が特別に増える、というものではありません。
  年金分野では、過去に発生した積立不足を”過去勤務債務”と呼び、積立不足分を
  ”穴埋め”することを、過去勤務債務を”償却”すると言います。
  償却期間10年3ヶ月とは、この特別掛金の負担が10年3ヶ月続くことを意味します。

  平たく言えば、新制度に加入する企業には、3.1%の別途負担が全加入員対象に
  10年3ヶ月続くということです。新入社員でもこの追加コストが生じます。
  そして、この追加負担は加入員本人の将来給付分には反映されません。
  給付とのバランスは後で解説します。



②給付について(一時金・年金):
<加入員>
 ●一時金;加入期間1カ月以上、10年未満の場合、脱退一時金を退職時に支給。
 ●年金;加入期間10年以上で、60歳退職または65歳到達の場合、退職時一時金、
    または確定年金支給(給付期間は有期;5・10・15・20年から選択)。
 ●給付額算定方式;加入期間中の平均標準給与月額×支給率(加入期間別)
    一時金ベースでは、従来の基金一時金額と同等水準。
    過去の加入員期間は引き継がれる。(加入期間は基金加入時から計算)
 ●予定利率・年金換算率・繰下げ利率、2.0% (現行基金の5.5%から変更)

 ※新制度の給付水準は、一時金ベースでは厚年基金と同じになります。
  年金(一時金額の分割受取)ベースは、年金換算率が現行基金の5.5%から
  2.0%に下がるので、年金額は減額になります。また給付期間は最長20年に
  なるので(現行基金では”終身給付”=60歳の平均余命期間・23年が平均的
  給付期間)給付期間も短縮され、年金支給総額は現行基金よりも減ります。
  (詳しくは後述)

  加入期間による支給条件を、一時金は加入期間1カ月から(従来は3年)、
  年金は加入期間10年以上(従来は15年)としたのは現行より改善です。

  なお、”予定利率2.0%”とは、新制度での資産運用利回りの基準(前提)が
  年利2.0%ということです。運用機関の手数料で0.3-0.4%が取られるので、
  実際の運用利回りは2.3%-2.4%が必要です。
  

<受給権者> (基金の受給者・待期者で、出身事業所が新制度に加入)
 ●加算年金額は、従来額から30%減額。
 ●支給期間は終身給付を維持。
  これに同意する場合は、新制度に権利義務を移転(新制度から年金給付)。
  そうでない場合は、解散後の分配金支払いで清算終了。

 ※受給権者(受給者および受給待期者;年金受給権は持っているがまだ受給
 開始していない方、を総称して”受給権者”と呼びます)は、年金額は減額して、
 終身給付は維持、つまり「給付減額」になります。
 それでも、解散後分配金(一時金)よりは支給総額は大きくなるので、殆どの
 受給権者は新制度に移行するでしょう。
 
 ここで問題になるのは、新制度に移行する企業の受給権者(OB)は移行出来て
 (条件変更に同意すれば)、それ以外の受給権者、新制度に移行しない企業の
 受給権者(OB)、あるいは出身企業が過去に脱退、または廃業・倒産などで
 消滅して基金には残っていない、いわゆる親なし受給権者は、そもそも移行する
 選択権がない、ということになります。
 これは、基金運営上の原則である加入員(受給権者は過去の加入員)に対する
 ”公平性”の観点から問題含みです。
 受給権者の年金受給権は、出身企業との権利義務関係ではなく、基金自体との
 権利義務関係ですので(年金支給義務は出身企業から基金に移っている)、
 同じ権利を有する受給権者でも、その出身母体の理由で権利行使を差別する
 ことには問題が残ります。(移行できない受給権者から基金が訴えられるリスク)
 

掛金額と給付額のバランス、具体的な数字計算は次の投稿で解説します。

2016年6月21日火曜日

事業所説明会が実施されます。

nsk基金は、「権利義務の移転承継方式」による新制度への移行を予定しています。
新制度に移行する事業所グループと、移行しない事業所グループとに分けての事業所説明会が次のように開催されます。
         
  開催日・場所・時間       <移行希望事業所>  <解散希望事業所>
平成28年7月 4日(月)【東京会場】    午後2時~4時       なし
  〃    7月 6日(水)【大阪会場】    午後1時半~3時半   午後4時~5時
  〃    7月 7日(木)【名古屋会場】   午後1時半~3時半   午後4時~5時
  〃    7月11日(月)【東京会場】   午後2時~4時       なし
  〃    7月13日(水)【東京会場】     なし       午後2時~3時
  〃    7月19日(火)【福岡会場】   午後1時半~3時半   午後4時~5時
  〃    7月20日(水)【広島会場】   午後1時半~3時半   午後4時~5時
  〃    7月26日(火)【仙台会場】   午後1時半~3時半   午後4時~5時

【東京会場】 スクワール麹町、【大阪会場】 ホテルグランヴィア大阪、
【名古屋会場】三菱UFJ信託銀行・名古屋、【福岡会場】三菱UFJ信託銀行・福岡、
【広島会場】三菱UFJ信託銀行・広島、【仙台会場】三菱UFJ信託銀行・仙台

希望と別の説明会に出席も可能だそうです。(移行希望事業所が解散説明会に、
解散希望事業所が移行説明会に、ともに可能。事務局にお申込みください。)

2016年6月8日水曜日

日本産業機械工業厚生年金基金の在り方を考える有志研究会(nsk基金有志研究会) は、当基金の在り方として、解散の可能性も含めて考えている加入企業の有志で作られました。

なぜ、私達が基金解散を選択肢として考えるのか、そもそも企業年金制度の在り方としてはどうなのか、また将来方向性を広く考えるために何が出来るのか、等々を、同じ基金に加入する事業主、加入員、労働組合の皆様にオープンにお伝えして、幅広い情報提供と意見交換の場とするために、この特設ブログを立ち上げました。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

有志企業連合会メンバー(高木工業株式会社、他)
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